日本の森林は、戦後に植林されたスギやヒノキなどの人工林を中心に本格的な伐採期を迎えています。

 そのため「育てる」時代から「伐って、使って、植える」という森林サイクルを形成し、木材を利用していく新たな時代に入ったと言えます。(以下の記事参照)

 また高齢化した樹木は、呼吸による二酸化炭素の排出量が吸収量を上回ります。

 そのため、森林を伐採・間伐し、新しく植林する森林サイクルが地球温暖化の抑制に貢献します。(以下の記事参照)

 一方で日本の森林は、かつてないほどの人工林の充実状況にも関わらず、所有林は小規模・分散的であり、森林所有者の世代交代や森林所有者の森林への関心が薄れていることから、長期的な林業の低迷が続いています。

 その結果、森林所有者による森林経営・管理が適切に行われておらず、伐採した後に植林がなされていないという事態が発生しています。

 加えて、所有者不明や境界不明等の課題もあり、森林の経営・管理に非常に多くの労力が必要になっています。(以下の記事参照)

 このような背景から、2019年より「森林経営管理制度」がスタートしました。

 本記事では、この「森林経営管理制度」についてや、今後の森林の未来について解説していきます。

新しく開始された森林経営管理制度とは?

 森林経営管理制度とは、森林の経営・管理を所有者の代わりに市町村が行う制度で、林業の成長産業化と森林の適切な管理の両立を図ることを目指すこととされています。

 今までは、森林所有者が林業会社に主伐や間伐を直接委託し、森林整備を行ってきました。

 しかし、森林所有者の不明問題や森林への関心が薄れていることにより、現在多くの所有林が森林整備の予定がない状況です。

 その結果、森林整備を隣接する所有林とまとめて効率よく行うことが困難な場合があり、森林整備は小規模となるケースが多いです。

 森林整備をまとめて行うことにより、作業コストが抑えられ、更には補助金も利用可能となり、森林所有者により多くの収益を還元ことが出来ます。(以下の記事参照)

 また林業会社が森林整備を行う際に、収益の還元化を図るため、隣接する森林所有者の方にも同時に森林整備を行うかの連絡をする場合があります。

 しかし、所有者の情報を管理する市町村は個人情報の取り扱いにより開示できず、地元の森林に精通している方の記憶によって所有者の確認が行われていました。

 この現状を解決すべく、2019年より「林地台帳制度」が開始されています。(以下の記事参照)

「森林経営管理制度」と「林地台帳制度」の開始により、所有林を市町村が経営管理することによって、森林整備が効率的に行われてることが期待されます。

経営管理が適切に行われていない森林の定義

 森林所有者は市町村役場の窓口で所有林の委託を行うことが出来ます。

 また、市町村が森林経営管理が適切に行われていないと判断した森林や、森林経営者が不明である森林に関しても市町村が代わりに経営管理を行います。

 森林経営管理が適切に行われていない森林の定義とは、森林所有者の義務とされる「適宜に伐採・造林および、保育」が行われていない森林を指しています。

 適切な時期、例えば市町村森林整備計画に定められた森林整備の時期から著しく逸脱していなければ、経営・管理が適切に行われていると考えられます。

 なお、標準伐採齢に達したら即主伐するというわけではありません。

 具体的には、例えば以下のような条件を全て満たすような森林が対象になると考られています。

  • 森林経営計画が策定されていない
  • 日常的に手入れや見廻りなどが行われていない
  • 林業会社などに経営管理が委託されていない
  • 下刈りや除伐が行われず、植栽木が被圧され成林しない可能性がある、または間伐等が手遅れで森林が過密化している

日本の森林の未来について

 市町村がまず行わなければならないのは、適切な森林の経営・管理がなされていない森林の抽出です。

 次に抽出された森林の所有者への意向調査を行います。

 対象森林の中で林業経営に適した森林は林業会社へ経営管理を再委託し、適さないと判断された森林は市町村が自ら管理を行います

 これまでの林業施策は、国の施策について都道府県が中心となって実施する制度が定着しており、各市町村が実施するのは小規模な林業が中心という状況でした。

 そのため、各市町村の森林・林業の状況に合った事業や施策・対策が行えないといった問題点が挙げられています。

「森林経営管理制度」の開始により、市町村が舵を取ることで、地域に適した森林・林業への取り組みが行える点が本制度のポイントです。

 しかし「森林経営管理制度」を市町村が実施していくためには課題点があります。

 それは、今までは都道府県が中心となって森林や林業政策を実施していたたため、林業課が存在しない市町村自治体がほとんどであるという点です。

「森林経営管理制度」は、山のことを知らない市町村職員には負担が大きく、機能しないのではないかという意見が多く挙げられています。

 そのため現在では、都道府県の林業職員OB等が「地域林政アドバイザー」として関わることでフォローするという形をとっています。

 こういった課題もあるのも現状ですが、これまで市町村が財政面や各種規制に阻まれて叶わなかった事業が、自治体主導で行える可能性を秘めている制度でもあります。

 今後、市町村が林業に参入することで、日本の森林・林業の未来が開けていくことを願っております。

最後に -林業経営に適さないと判断された森林-

 市町村が林業経営に適さないと判断した森林は、現在針葉樹である人工林を間伐し、広葉樹を植林するため、針広混交林を目指す施業方法が提案されています。

 広葉樹は根を大きく広げるため地盤の強度が上がり、土砂崩れを防ぐことが出来ます。

 また、広葉樹は落葉のものが多いため土壌が肥沃になり、水源涵養機能も向上します。

 しかし、針広混交林は以下のデメリットもあります。

  • 針広混交林では林内が暗くなり他の植物が成長しない
  • 広葉樹はドングリをつけるため餌とする鹿が増殖
  • 枝が大きく広がる広葉樹は間伐範囲が広がる
  • 植林する広葉樹は約600種あり対応できるのか

 というように針広混交林を目指す問題点も挙げられています。

 以上、森林経営管理制度の完成には、まだまだ乗り越えなければならない課題が残存しています。

 しかし、少しずつ日本の森林・林業の状況が変わってきているのも事実です。

 Woodyニュースを通じて読者の方に、日本の森林や林業の現状について少しでも知っていただけると幸いです。

 以上が「日本の森林・林業の新しく開始した森林経営管理制度とは?日本の森林の未来について」の解説になります。最後まで読んで頂きありがとうございます。

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